カズケン二人はすでに出来上がって同棲状態なんですが、このお話のメインキャラクターはカズケン二人ではありません。
オリジナルキャラクターが主人公です。
オリキャラが苦手な方は続きをお読みになりませんよう、ご注意願います!
二人の住むアパートの一室のチャイムが鳴るのは、そうそう頻繁にあることではなかった。
まず、家に上げるような友人が少ない。
二人の関係を後ろめたいなどと思いはしないが、おおっぴらに喧伝することでもないので、よっぽど親交がないと家には招かないし、来ても入れない。唯一条件に該当するのが佐久間敬ぐらいだろうか、彼は時折この家にやって来る。が、来る予定は事前に連絡されるはずなので、その訪問は大抵予想のつくものであった。
宅配のお兄さんともあまりご縁がない。
佳主馬はネット依存症の割に買い物は自分で現物を見てからでないとしない主義らしく、よほど取り寄せの難しいものでもなければ滅多にオンラインショッピングをしない。健二にはそもそも物欲というものがあまりない。よって二人の愛の巣へやってくるのは親族からの「送るわね」とあらかじめ予告された荷物くらいだった。
そのほかにたまに来るものと言えば新聞か、怪しげな宗教の勧誘だ。
それらを撃退するのは逞しく育ち、威圧感も貫録も日ごとに増す佳主馬の役目である。
かくて彼は、やれやれと息をついて久しぶりに来客を告げた扉の方へと大儀そうに歩いて行った。
「はい」
新聞なら間に合ってます、と常套句を口の中に用意していささか乱暴に開け放った扉の向こうに居たのは、予想外の人間だった。
「佳主馬、いたか!すまん、今日からしばらくこいつ預かってくれ!なるべく早く迎えに来る!!」
じゃあな!と言いながらわしゃわしゃと手を動かす中年男性―――自分の大伯父にあたる侘助を見て、佳主馬は驚きに固まった。
彼はえらく急いだ様子で佳主馬に挨拶(らしきものはなかったが)をしたが、じゃあな、とはしかし、そのわしゃわしゃとかき混ぜている小さな頭の持ち主への言葉だったのだろう。
微動だにせず髪の毛をかき回す男の手を甘んじて受け入れている「それ」は、返事をしようとはしなかったが。
「はっ?ちょ、」
「後で必ず礼はする!!頼んだぞ!!」
そう言い残してどたばたと去って行った大伯父をぽかんと見送り、佳主馬はまだ混乱している自分の頭の中を必死で整理した。
「佳主馬くん、今の声もしかして… え、と?」
ひょこりとその肩口から覗いた健二が、視線を下へ下げてやはり同じように固まる。
「君は…?」
戸口を塞ぐバリケードに成り下がった佳主馬を容赦なく押してどかし、小さな影の前に腰を折って屈んだ健二は視線を合わせた琥珀色の目ににこりと笑って問いかけた。
しかし相手は笑わない。
じっと健二を見返して、ぴたりと合わさった唇からは返事もなかった。
うーん?と首を捻った健二が「あ」と思いついたように言葉を付け足して繰り返す。
「君の名前は?」
すると一瞬瞳を揺らしたあと、唇が開いて小さな声が返る。
「…アオイ。」
「あおい…ちゃん、かな?」
その質問には答える気がないらしい。
宝石のように感情の読めない目で口をつぐんだ子供に、健二は困ったように眉を下げた。
「君は侘助さんの…えっと、どういうご縁…うーん……」
先ほど聞こえた声が侘助のものだと仮定して、健二は言葉を選びながら彼との関係を探ろうとした。
結局上手い言い回しが思いつかずに、「君と侘助さんは、どういう関係なのかな?」と問い質すような形になってしまってしまったと思う。
だが目の前の子供の表情はやはり動かず、それどころか先ほどよりはっきりとした声で、二つ目の答えが返ってきた。
「カゾク。」
「えっ」
健二はどういうことだろうかと頭上を振り仰ぎ意見を求めようとして、更に眉を垂れた。
佳主馬はまだ固まったままで使い物になりそうにない。彼は不測の事態にはけっこう弱いのである。内心「あちゃあ」と呟き、仕方がない、とため息をつく。自分がしっかりしなければ。
キリリと表情を戻した健二が、なるべく失礼にならないよう、でも壁を感じさせないようにと腐心して声を掛ける。
「侘助さんの家族なら、僕たちにとっても家族だね。」
その言葉に初めてはっと子供の顔が変わる。
健二はふと安堵を感じて、知らず微笑みを浮かべていた。
「とりあえず、上がってお話しようか?」
促され、小さな歩幅でおずおずと玄関に上がる子供を待って扉を支えながら、いい加減解凍してよと佳主馬のわき腹を肘で小突いた。
つづく
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わびすけさんとようじょに巻き込まれるカズケンのおはなし。
まだ続きます。お付き合い頂ければ幸いです。
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2009/11/19
サマヲ(カズケン)
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無題
不測の事態には固まる佳主馬くん、いいですね。
そんな時には腹をくくって冷静な健二さんと合わせていいカップルだと思います。
NONAME 2009/11/19 02:07 EDIT RES